休憩至上ism

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Human-Computer Interaction (HCI) Advent Calendar 2022 16日目

本記事はHuman-Computer Interaction (HCI) Advent Calendar 2022 16日目の記事として執筆しました。

 

 

この記事ではとある修士2年生である著者の一風変わった来歴と,修士課程でやってよかったことを書きます。

著者Twitterねむたい銀河系🦋 (@GingaSystem) / Twitter

 

1. はじめに

  読みに来て下さってありがとうございます。アドベントカレンダーってシュトレンを少しずつ切っていくのに似ていて楽しいですね。

2. 来歴

  HCIの分野で研究をしている修士学生です。興味は人間の感覚全般とその間の相互作用,あとはWellbeingです。ストレートに学部/大学院に入ったわけではなく,少し変わった経歴を持っています。

 

  今年はIEEE GCCE 2022 Excellent Student Paper Awards Silver Prizeを貰いました。

最新の論文タイトルは

"Otonona: A Prototype for Experiencing Absolute Pitch Using Multimodal Augmented Reality"

-Otonona: マルチモーダルな拡張現実を用いて絶対音感を体験するためのプロトタイプ-

です

 

日本語論文

情報学広場:情報処理学会電子図書館

 
2.1 音楽との出会い

  学部に入る前,長い間音楽を経験していました。中学高校では吹奏楽部に所属しフルートを担当していて,高校のコンクールではモーリスラヴェルの曲を演奏しました。その練習のさなかに音の重なりが風景のように感じられて,その捉えどころのない美しさに心を刺されたようになると同時に自分の中に焦りと悔しさのようなものを感じとりました。それは,その時に見えた一瞬一瞬の香りのような美しい情景をどうにか保存したいという気持ちに由来するものでした。一瞬だけ湧き上がっては消えていく感覚を保存できればその美しい景色の中に入って思う存分探索したり分析したりできるのではないか,とも考えました。私は好きなものを深く理解したいのでした。

 

2.2 音楽の適性への疑問

  卒業後もフルートの演奏を続けて,その関係で1年間フランスに留学しました。音楽は好きで長く続けたことからアイデンティティに組み込まれていました。しかし実は自分には音楽への適性はあまりないとも感じていました。そもそも中高時代から人よりたくさん練習してやっと人並みに演奏できていました。今から思うと,音楽の演奏にはスポーツで必要とされるような俊敏さがある程度必要で,私はその俊敏さを人並みにする段階で既に苦労していました。フルートは特に急速なパッセージが多く,たくさん練習しないと正しく音符を並べられません。そういうことが比較的苦労なく出来る人たちもいます。音符を正しく並べられる状態というのは演奏活動にとってはスタートラインみたいなもので,そこで苦戦していると表現を学ぶハードルが上がってしまいます。作曲もしましたが,和音の進行もメロディも自分の中から自然に湧いてくるという感覚は持てませんでした。私はもともと聴いたものを視覚的に変換しようとする癖があり,つまりはたぶん視覚が優位であり,聴覚があまり発達していない感じに気づきました。

 

2.3 創作活動とHCIへの繋がり

  音楽への向いてなさにうっすら苦労しつつも,表現について考えながら生きる毎日でした。幼少期からいちばん好きで得意だった科目は美術(図工)でした。作品を作って何かしらの世界を提示するようなことがずっと好きです。その作品が存在することにより,自分の属する世界そのものがどこか変わって見えるような力のある作品が好きです。吹奏楽部に入ったことにより,いつの間にか音楽の世界に来ていましたが,音楽の世界でも自分の好きな創作活動をやろうと,和音進行やメロディのない音楽作品を作っていました。これらは一般的に受けの悪い作品で,かつ宣伝が下手なのもあって,M3(音楽イベント)でCDが2枚しか売れませんでした。それも遊びにきてくれた友達にだけ。私は自分の作品好きなんですけどね...。

そういった作品の中では,他の感覚から得たものを音で伝えようとしていたのですがこれはなかなか前途多難な取り組みでした。同じ曲を聴いても人それぞれで感じることは違うのだと気づき,探求を続けていくにあたり壁にぶつかりました。自分にはもう少し定量的に物事を扱えるような武器があったほうがいいのでは......とうっすら思ったのか思ってないのかその時点では明確に意識されたわけではありませんでしたが,ちょうどフランスから帰国した辺りから理転して大学受験を始めました。

 

2.4 大学生活

  そして情報科学科のHCI分野に辿り着きました。これがピッタリだったようで他のどの研究を見てもわくわくしてとても楽しいです。2021年に学部を修了して大学院に入り,「人間の音感をコンピュータで拡張する」というテーマを掲げて研究しています。

  ヒーローズリーグという大規模な開発コンテストで2年連続で賞を頂いたり,国際学会ADADAでExellent presentation賞を頂いたり,国際学会 IEEE GCCE2022で"IEEE GCCE 2022 Excellent Student Paper Awards Silver Prize"を頂きました。これは私の人生の中で1番高く評価されたことだと思います。

 

というのも良い指導があったからこそのものなのですが。

......というわけで修士2年生の冬になりましたので,研究者としてはひよっこですが,修士過程の研究と論文執筆のためにやっておいて良かったことを次章に書きます。

 

※ 個人的なおおまかなスケジュール

修士一年夏まで:学部時代の研究の発表,単位取得,論文輪読,修士テーマ選定

修士一年秋冬:単位取得,論文輪読,開発コンテストに挑戦,論文書き始め,国際学会にdemo参加

修士二年夏まで:就活,国内学会登壇発表2つ

修士二年秋冬:国際学会登壇発表,修士論文まとめ始め

 

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3. 修士課程でやってよかったこと

3.1 論文輪読

  授業とゼミで輪読に参加しました。論文を読み慣れることで論文を書いていく勇気が出ました。特に輪読では大事な部分だけ抜き出して流れを掴む練習をしたので,論文の構造の理解に繋がり,これから自分がやっていくことが具体的に分かるようになりました。ここではHCI分野にどんな研究があるのか知ることもでき,刺激になりますが,1番大切なのは論文のどこに何が書かれていてどんな流れになっているのか身を以て知ることだったと後々分かりました。

先行研究とか関連研究はテーマ選定の際に嫌でも調べることになるので,「たくさんの研究を知っておこう」というような先手を打った勉強にはそれほど神経質に時間をかけなくてもいい気がしています。先にたくさんの研究を見すぎることでアイディアを浮かべる際に息苦しさを感じる場合もありそうです。

3.2 テーマ選定を粘る

  修士課程で2年間過ごしてみて,テーマ選定が上手くいけばその後の研究が大変スムーズになると分かりました。私の所属する研究室では原則として1人1テーマを扱います。個人的なテーマを扱う人が多いですが,研究室テーマを選ぶこともできます。研究アイディアを5〜10個ほど挙げてから指導教官とミーティングを重ねます。ここで焦らないことが非常に大切だと思いました。例え他の学生が自分より早くテーマを決定していっても。これだけで修士一年の夏か秋の始まりまでかかってしまってもいいと思いました。修士一年は授業もありますから後で楽ができるように夏が終わるまでは単位をなるべく多く集めつつテーマ選定にエネルギーを注ぐのが最適だと思います。私の場合は夏頃にうっすらテーマが決定し,プロトタイプを11月締め切りの開発コンテストヒーローズリーグに出しました。

 

テーマ候補を列挙するときに考えたいこと

  • 今過ごしている世界をどんな世界にしたいか
  • 今過ごしている世界に対して不満足な部分
  • 自分が何に興味をもっているか
  • 情報科学とその興味を掛け合わせてやりたいことはないか

テーマを選定する時に考えておきたいこと

  • 自分がそれを面白いと感じているか
  • 背景を簡単にでも語れるか
  • 既存システムにはどんなものがあるか
  • 自分のシステムにしかない部分
  • 実現したいことを一文で表すとなにか
  • 主張を一文で表すとなにか

これが決まっていれば,ほとんど既に論文を書けたようなものなのかもしれません。時間がかかってもこれを明確にしてから始めれば研究の航海が安全なものになる確率は高まると思います。私の場合は週に一度くらいテーマ決め相談のミーティングをしてもらいました。ここではよく時間をかけてうじうじしていました。情報科学で人間の感覚を扱う研究をするのは長年かけてたどり着いた場所でもありますし遊園地のように全てが楽しく感じ,あっちもやりたいこっちもやりたいと数ヶ月言ってました。テーマ選定で使わなかったアイディアもページを作るなどして書き溜めておくことをおすすめします。

 

3.3 目次を考える

  主張が定まったら,先に目次だけひととおり完成させます。目次だけ書いた状態で,その項目ごとに大まかに何を書くか考えてノート(私の場合Scrapbox)にまとめると迷いがなくなりました。目次だけの状態で論文の流れを先生と相談するとさらに確信して作業に入れますし,執筆作業が後で無駄になりにくくなります。

 

3.4 執筆ペースを単調にする,ギリギリ派をやめる

  学部入学から修士1年生まで締め切りを大いなるモチベーションにして動いておりました。課題などの締め切りの直前になると心の中でお祭りを開催して一気に仕上げます。そうすることで作業のスピードが上がるような気がして,そんな状態を効率が良いと思っていました。しかしある時,指導教官が「ぎりぎりに作業をするのは好まない」とちらっと言っていたのでそれを真似してみようと思いました。ぎりぎりに作業をするとクオリティを高めにくいそうです。それに加えある本で「一日の進むペースに揺れがあった南極探検隊は全滅し,一定のペースを保った南極探検隊は全員生き残った」というような内容を読み,全滅したくないなと思い,それからはなるべく一定のペースで執筆するようになりました。一定のペースにするには,調子が良いときに書きすぎないというのも大事です。あらかじめ作っておいた目次を見ながら,毎日少しずつ埋めていくようにしています(執筆時間は一日2時間まで)。これが今のお気に入りの執筆スタイルです。

 

4. おわりに

  読んで下さってありがとうございました。これが私が修士生活で学んだことです。修士課程にいる間,今までの人生でいちばん穏やかで楽しかった気がします。ここで一旦エンジニアとして就職しますが,いつか博士をとりたいななんて思っていますので引き続き応援して頂けたら嬉しいです。

 

皆様,どうぞこのあとも楽しいHCIアドベントカレンダーとクリスマスを!🎄🎁

 

 

adventar.org